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浦和地方裁判所川越支部 昭和31年(ワ)39号 判決

事実

原告は被告より三回に亘り合計金二十一万円を借り受けたが、その際本件二筆の山林に一番抵当権を設定する契約で被告に原告の印鑑を預けたところ、被告は勝手に右印鑑を使用して契約のない請求権保全の代物弁済仮登記及び所有権移転の本登記をなしたが、原告は代物弁済を承認したことはなく右各登記は何れも原因無効である。仮りに代物弁済契約があつたとしても本件二筆の山林は時価百五十万円の価値を有し、合計金二十一万円に過ぎない右債務の代物弁済としてその所有権を移転する契約は公序良俗に反するから無効である。従つて原告は右代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求めると主張した。

被告は、被告が原告に三回に亘り合計金二十七万円(二十一万円ではない)を貸与したときに本件山林に抵当権を設定し、かつ期限に支払わないときは本件山林をもつて弁済に充てることを約束したのであつて、その後被告が何度催促しても原告は右金員を返済しないので、被告は右約束に基いて本件山林を以て弁済に充てたのである。なお本件山林は金百五十万円の価値はないと争つた。

理由

原告は本件各代物弁済は公序良俗に反するから無効であると主張するのでこの点について判断するのに、証拠を綜合すると次の事実が認められる。すなわち、(一)原告の妻は昭和三〇年一一月から昭和三一年三月まで病気のため国立所沢病院に入院し、本件各借受金は主にその入院治療費に充てられたものであること、(二)本件各借受金の弁済期は二カ月の短期であり、利息は月五分の高率であること、(三)鑑定の結果によると、昭和三一年五月三一日当時本件二筆の山林は合計金百二十七万六千七百九十六円(債務合計額の約六倍)の価格を有していることが認められること、(四)被告は当時金貸業を営んでいたものであることが認められること、(五)原告家は畑二町八反を耕作する農家であるが、原告自身は神経痛のため農仕事はあまりやらず、専らその妻がこれに従事していること、(六)昭和三一年三月頃原告は国税滞納のため本件各山林を差し押えられていたこともあり、当時原告は経済的に窮迫していたことが推認されること、(七)原告家のような農家にとつては山林がその営農上極めて重要な資産であることが窺えること、以上の諸事実が認められるのであつて、これらの認定事実より判断すると、本件各代物弁済は原告の窮迫に乗じて締結されたもので法律上無効であると解するのが相当である。

よつてその無効を前提として本件各所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告の請求は正当であるとしてこれを認容した。

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